2021.05.31
一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会
- 日本インタラクティブ広告協会(略称:JIAA、以下、当協会)は、「デジタル広告市場の競争評価 最終報告」(以下、本報告書)に対して、デジタル広告(インターネット広告)に携わる媒体社(パブリッシャー)、プラットフォーム事業者(アドテク事業者を含む)、広告会社(広告代理店)など幅広い事業者が集まり、自主的なルール整備による諸課題の解決を目指して活動する業界団体として、以下の意見を申し述べる。
- まず、「デジタル広告市場の健全化において、デジタル広告の質の問題は極めて重要な問題である。その課題解決に向けては、広告主やパブリッシャーも含めた関係事業者が、正しい認識をもって対応策を実行していくこと、相互理解を高めて取引を行っていくことが求められる。それぞれの問題の要因や対応策が異なることを前提としつつも、業界の関係者全体で改善に向けて取り組むべき課題である」<59~60ページ>との認識に立ち、「広告主の買い方改革」につなげる<61ページ>との方向性は大いに賛同するものである。ただし、ビジネス上の説明責任を徹底すべきは、大規模プラットフォーム事業者のみではない。例えば、ブランドセーフティについては、広告主においてブランドセーフティの基準の明確化と説明が必要であり、パブリッシャーにおいても自社のコンテンツ基準の明確化と説明を必要とする。アドフラウド対策についても、規模の大・中小にかかわらずすべての関係者が具体的な対応策を講じるべきである。例えば、標準的な対策技術のひとつである「ads.txt」はプラットフォーム事業者だけでなくパブリッシャーに導入されてはじめて機能するものである。また、パブリッシャーが自社で掲載結果(インプレッション、クリック等)を測定する場合には無効なトラフィックを除外する必要がある。なお、これらの事業者が講じるべき原則的な対応策は当協会がガイドラインに定めており、JICDAQの認証制度により可視化されることとなるものである。
- よって、「関係者の認識・理解を高め、取組を強化するという目的に向けては、JIAAのガイドライン等に関する取組やJICDAQの取組が重要であり、レビューにおいて、関係事業者に対し、それらに沿った取組の重要性を指摘することなどを含め、業界の取組の後押しを行っていくことも重要である」<63ページ>との考え方は、業界の目指す方向性と一致するものであり、対策の実効性を高める上で非常に有効であると考える。ただし、当協会及びJICDAQには大規模プラットフォーム事業者と競合するサービスを行う中小規模のプラットフォーム事業者も少なからず参加している。当協会及びJICDAQは、業界全体の共通課題を解決するために活動するものであって、特定の大規模プラットフォーム事業者との個別取引における問題解決を行うことを目的としていないことに留意いただきたい。
- 以上のように、当協会は、デジタル広告の質の課題は競争上の問題ではなく、大規模プラットフォーム事業者の透明化で解決するとは考えてはいないものの、全体に課題への対応に関する法制面での検討について、「政府が大枠を定めながら、詳細の取組については事業者の自主性に委ねつつ、関係者を巻き込みながらレビューを行い、官民がそれぞれの役割を担うことにより、よりよいガバナンスを追求していく共同規制の枠組みを採用している」<253~254ページ>との方針が示されたことは理解できる。「共同規制の枠組みは、いうまでもなく、執行段階での官民における創意工夫が求められるものであり、今後、関係者各位が相互理解を深めながら、市場の健全化に向けて取り組んでいくことが期待される」<254ページ>との方針には、透明化法の「国の関与や規制は必要最小限のものとする」<37ページ>との基本理念に即して、詳細のルール整備のプロセスにおいても民間事業者が創意工夫を発揮できる枠組みとなることを期待する。官民が共に規制のPDCAを回し、市場実態に則したスマートレギュレーションによって公正で健全な市場環境を実現していくことを求めたい。また、レビューにおいて、「それぞれの問題の要因や対応策が異なることを前提とし」て、何をもって規制の実効性が上がっていると評価するか、官民が共通の指標をもって適正な評価を行うことが重要になると考える。
- 一方、プラットフォームの利用者は多種多様であり、直接的な販売効果を目的とする広告出稿者も多く、短期的な集客による収益を目的とする媒体も存在する。デジタル広告市場において取引を行う者は、高い品質や透明性を求める広告主やパブリッシャーばかりではない。また、広告主は企業だけではなく、広告掲載サイト・アプリも個人が運営するものも存在し、広告がインターネット上での個人の自由で私的な活動(合法かつ正当なもの)も支えていることも忘れてはならない。このような多様なニーズに応えるプラットフォームの役割と特性への理解も必要であると考える。また、政府は、広告主やパブリッシャーに代わりプラットフォーム事業者と交渉する立場にあるものではないことに留意すべきである。いかなる法令上の義務付けも、プラットフォーム事業者が自らのサービスにおいて、プライバシー保護に関する規律の遵守、セキュリティ上のリスク管理など、安全性の維持向上を行うことを妨げるものであってはならないと考える。なお、デジタル広告市場において大規模プラットフォーム事業者による競争上の具体的な懸念が生じている場合は、独占禁止法により「厳正に対処していくことが必要」<38ページ>かつ十分であると考える。
- 本報告書のまとめにおいて、インターネット上で大量のコンテンツが生産され消費される「アテンション・エコノミー」による歪みが生じており、デジタル広告が経済の推進力である反面、その歪みの一因として機能しているとの指摘<247~248ページ>は否定できない。デジタル広告市場は、技術革新による新たなサービスが従来の課題を解決する一方で、それに伴って新たな課題が生まれ、さらにその課題を克服するために新たな技術開発がなされている。そのように市場環境を変化させながら急速に発展を遂げてきたものであり、ルール整備において「非常に変化のスピードが速い分野であることから、事業者によるイノベーションによる課題解決を促していくことが必要である」<36ページ>との視点は重要である。その点からも、デジタル広告のサプライチェーンに関与する多種多様な事業者のイノベーションを妨げないためには、透明化法の適用による規制の外延は明確であるべきであり、事業者の予測可能性を阻害するものであってはならないと考える。
- 現在、デジタル広告市場は、従来のブラウザやOSの識別子を利用した広告配信や測定の技術が大きく変わる転換期にある。識別子の技術仕様の変更による影響は、単にターゲティング広告にとどまるものではない。規模の大・中小にかかわらず、その影響による市場の不確実性に対して予測しながら対処を行っている最中である。また、エンドユーザーの広告への忌避感とターゲティングとの関連性は、必ずしも一致せず明らかではないことにも留意する必要がある。ターゲティングにかかわらず広告そのものが煩わしいという意見と、ターゲティングは否定しないがその結果に満足できないという意見があることは、消費者庁、公正取引委員会、当協会の調査でも明らかになっている<180~181ページ>。デジタル市場における競争政策において「広くデジタル市場全体を俯瞰してデジタル広告市場をとらえた場合、利用者が接するスマートフォン等のインターフェイスから、OS、ブラウザ、検索等を経て最終購買に至るまでの、一連の顧客の「送客」サービスとしてとらえる視点」<254ページ>は必要であるが、マスメディア広告も含めた広告産業に携わる広告関係者は、デジタル広告市場を単なる経済活動とだけ捉えているものではない。広告は、エンドユーザーにとって新しい情報との出会いであり、社会的な価値や共感を生み出すコミュニケーションとなるべきものであり、それには信頼が不可欠である。当協会は、『インターネットを利用して行われる広告活動が、デジタルコンテンツやネットワークコミュニケーションを支える経済的基盤である、という社会的責任を認識しながら、インターネット広告ビジネス活動の環境整備、改善、向上をもって、広告主と消費者からの社会的信頼を得て健全に発展し、その市場を拡大していく』との基本理念に立ち、デジタル広告が広告主、メディア(パブリッシャー)、消費者(エンドユーザー)の三方にメリットがあるものとなるよう、官民で協力しながら、引き続き良質なデジタル広告市場の実現に努力していきたいと考える。