2021.04.16
デジタル市場競争会議ワーキンググループ 御中「デジタル広告市場の競争評価」に関する意見
当協会は、2020年7月27日に「デジタル広告市場の競争評価 中間報告」に関する意見を提出し、デジタル広告市場が健全で持続的なものとして発展していくために、市場の実態を十分に踏まえた実効的かつ現実的な提言がなされることに期待する旨の意見を述べました。その後、本年2月22日に開催された貴ワーキンググループにおいて、デジタル広告市場におけるプラットフォーム事業者を「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(以下「取引透明化法」といいます。)の規制対象とし、一定の規律を設ける方向性であることが示されました。これについては、3月15日に開催された貴ワーキンググループのヒアリングで当協会の考えを述べさせていただいたところです。しかしながら、ご説明が不十分で至らなかった点が多々あるものと考え、改めて意見を申し述べます。
「デジタル広告市場の競争評価」の大きな方向性については、デジタル広告市場の実態を踏まえたより建設的な議論によって、政府と業界が共に公正で健全な競争環境の実現に向け、業界に適した形でのスマートレギュレーションを目指し、イノベーションの促進と課題の解決・改善に向けた取り組みを進めることができるよう期待するものです。日本においてデジタル広告事業を営む幅広い事業者が集まり市場の健全な発展を目的として活動する業界団体である当協会は、業界の自主ルールや公正なビジネス慣行、市場全体のバランスを考慮し、公平・公正な制度となるよう、その形成プロセスに協力していきたいと考えます。
<デジタル広告取引におけるプラットフォームの役割について>
デジタル広告の中間取引において介在するプラットフォームは、自動化により効率的に取引が行われる仕組みを提供しているもので、大規模プラットフォーム事業者のほか、中間報告等において「アドテク事業者」と呼称されている中小規模のプラットフォーム事業者も多数存在します。デジタル広告のプログラマティック取引では、それらの事業者が運営する複数のプラットフォームが介在する場合も多く、一方で大規模プラットフォームが介在しない取引も行われます。その取引の経路や介在する事業者の種類や数は、需要と供給のマッチングによってトランザクションごとに異なり、広告の販売/購入条件は、直接相対する事業者間でのみしか把握することができないものです。また、広告主、広告会社(運用会社を含む)、プラットフォーム事業者、パブリッシャー(媒体社)の事業者間取引における契約条件やプラットフォームの利用条件も同様に、直接契約する事業者相互の間でのみ了解されているものです。ただし、最終的に広告主に対して示される請求のエビデンスとなる広告レポートについては、プラットフォーム事業者それぞれによって特徴はあるものの、広告会社(運用会社を含む)を通じて、または、広告主の要望に応じて可能な場合は直接管理画面を通じて提供されています。
<デジタル広告市場の実態と課題について>
デジタル広告市場は、誕生から25年ほどの歴史の中で、インターネット通信技術の発達によってさまざまなイノベーションを生み出しながら発展してまいりました。一方、普及が進むにつれて現実社会と同様の問題がインターネット上でも起こっています。本来、正当な広告業務を行う事業者間でのBtoB取引を前提にしたデジタル広告市場においても、通信技術を悪用した詐欺や犯罪行為を行う第三者が現れ、多様な手口が出現していることへの対策が欠かせません。特に、アドフラウド対策やブランドセーフティは、広告主、広告会社やパブリッシャー、プラットフォーム事業者などすべての関係者が問題への正しい認識を持ち対策を講じる必要があり、貴ワーキンググループにおいても指摘されているとおり、業界全体で取り組むべき課題です。
プラットフォームが介在する取引手法の一つに、オープンマーケットプレイスという自由な競争で相互に条件を満たせば誰でも参加できる「売り方/買い方」があります。パブリッシャーにとっては売れ残った広告在庫を再販することができ、広告主にとっては条件を調整しながら費用を抑えて広告在庫を購入できる点において効率性が高いことから、近年普及が進んでいます。一方で、広告購入者の買い方としては、プログラマティック取引の中でもプライベートマーケットプレイスやプリファードディールといった取引手法に比べ、アドフラウドやブランド毀損のリスクが高いことを認識したうえで、ブランドやキャンペーンの目的に沿った適切な取引手法を選択することが必要です。
<デジタル広告取引の透明性・公正性について>
公正な取引の維持のためには、取引に関わる広告主、広告会社(運用会社を含む)、プラットフォーム事業者、パブリッシャー(媒体社)が互いに取引に必要な情報を提供・提示し、それぞれが取引先の求めに応じて可能かつ適切な範囲・方法での合理的な協力を行うことが必要です。このことは、当協会やグローバルで自主基準を定める業界団体の各種ガイドライン等の自主ルールにおいて、BtoB取引での標準的かつ合理的なビジネス慣行の観点から規定しています。公正取引委員会の「デジタル広告の取引実態に関する事業者向けアンケート調査結果」を見ると、大規模プラットフォーム事業者によって説明を受けた事業者のほぼ100パーセント近くが「納得できた」と回答しており、取引における不満や課題は当事者間で相談・交渉して解決することができるものと考えられます。プラットフォームビジネスの創生期に見られたBtoB取引での混乱やトラブルは、市場の成熟の過程で徐々に解消してきているとみられ、当事者間の相互理解によって改善可能なものといえます。
<デジタル広告市場における質に係る問題について>
前述の個別の取引における透明性・公正性の問題と異なり、「課題①:デジタル広告市場における質に係る問題」として提示されているアドフラウドやブランド毀損などの問題は、大規模プラットフォームの寡占の状況とは関わりがなく、不透明さが要因であるとの指摘も当たらないものです。
勿論、本質的な課題の解決は、詐欺や犯罪行為を行う第三者を撲滅することですが、現実社会と同様に犯罪を完全になくすことは困難です。業界全体をあげて取り組むべきは、正当な取引を行う事業者が犯罪に巻き込まれるリスクを下げること、すなわち、広告購入者である広告主の発注・出稿の仕方をブランドに適したものにすること、デジタル広告の取引に関係するすべての当事者がリスクを理解したうえで取引のプロセスにおいて質を確保するための具体的な対策を実行することです(その実行の確保については次項において述べます。)。
そのような実態から、取引透明化法により大規模プラットフォームに質の透明性を高める要求が、かえって問題の所在や構造、改善の取り組みのあるべき方向性に誤解を生じさせるおそれがあり、市場に悪影響を及ぼしかねないことを危惧します。また、取引透明化法の趣旨は、大規模プラットフォーム事業者の営業上のサービス向上が目的でないと認識しているところですが、実際の取引において拡大して解釈され、ビューアビリティ等を含め本来の改善ニーズを満たすこととは異なる過剰なサービスを中小規模事業者に対しても要求されることになりかねず、これにより寡占化が一層進むことを強く懸念します。
したがって、課題①で提示されている質の問題に関しては、大規模プラットフォームの取引の透明性・公正性が低いことに由来するものではないため、果たして取引透明化法が実効性の確保された規律として機能するかについて疑義があります。規律を設けることによって、かえって公正な競争が損なわれることにならないよう、業界実態を十分に踏まえた慎重な検討を求めます。
加えて、政府には、詐欺・犯罪行為であるアドフラウドに対する実効策、摘発体制の強化を要望するものです。
<業界全体における自主的な取り組みによる課題への実効的な対応>
日本アドバタイザーズ協会、日本広告業協会、日本インタラクティブ広告協会の3団体が本年3月に設立し、4月に事業を開始した「一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」は、課題①で提示されている質の問題に実効的に対応するための取り組みです。パブリッシャー(媒体社)、プラットフォーム事業者、広告会社、アドベリフィケーションツールベンダーなどの事業者が業務プロセスの品質認証を受け、広告主を含めて相互に取引先として品質認証事業者を自発的に選択することにより、デジタル広告取引の質を確保する枠組みです。すでに50社を超える大手広告主企業が賛同を表明してJICDAQに登録しており、大規模プラットフォーム事業者も含め主要な事業者が登録認証申請を開始しています。実際のJICDAQの認証業務に当たっては、BtoB取引の当事者間の信頼のため中立・公正な運営を確保する必要があることから、外部評価の実施も図ります。また、認証基準を透明にし、標準的な対策の実行プロセスを持続的なものとして、業界全体で自らの課題解決を図ってまいります。
このように新たな取り組みが進みつつあること、また、冒頭に述べたスマートレギュレーションの実現の観点から、課題①の質の問題に対する取引透明化法による介入の必要性の有無を改めて判断いただきたいと考えます。今後JICDAQの取り組みが軌道に乗り、それでもなお課題に対する効果が不足している場合には共同規制を活用してより確実な取り組みとなるよう補強するなど、現時点での性急な制度整備を避けるよう、柔軟な対応を求めます。
<パーソナル・データの取得・利用に係る懸念について>
デジタル広告におけるパーソナル・データの取扱いについては、個人情報保護法や電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインなど既存の法令等があり、さらには、業界の自主ルールとして当協会が「プライバシーポリシーガイドライン」と「行動ターゲティング広告ガイドライン」を定め、法令等の遵守を前提として自主的に運用してきています。当協会のガイドラインに定める行動ターゲティング広告に関する消費者への透明性と関与の機会の提供については、「インフォーメーションアイコンプログラム」や「DDAI」といった具体的な施策も行っています。また、一部の大規模プラットフォーム事業者によるプライバシーダッシュボードの提供も行われています。
大規模プラットフォーム事業者が消費者への透明性や関与の機会の提供について十分に情報提供を行っているとしても、プラットフォームを利用して広告を掲載・配信しているパブリッシャー(媒体社)や広告主のサイトなど消費者が直接利用するサービスにおいても広告目的でのパーソナル・データの利用について告知がなされる必要があり、連携している事業者すべてが対応する必要があります。そのことは当協会の「行動ターゲティング広告ガイドライン」に規定しています。また、大規模プラットフォーム事業者は広告のためだけにパーソナル・データを取得しているものではないため、各々の取扱い状況に応じて適切な方法で情報提供を行っているものです。そのような取り組みに対する消費者の認知向上の課題については、取引透明化法での規律がデジタル広告における既存のルールの補強となり得るのか疑問のあるところです。
「課題⑩:パーソナル・データの取得・利用に係る懸念」に対しては、デジタル広告領域でのパーソナル・データの取扱いが業界の自主ガイドラインや自主的取り組みに委ねられていることを考慮して、取引透明化法の基本理念に「国の関与や規制は必要最小限のものとすること」と示されているとおり、規律の適用が重複しないよう、慎重に検討することを求めます。
以上