2020.07.27
一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会
- 日本インタラクティブ広告協会(以下、当協会)は、「デジタル広告市場の競争評価 中間報告」(以下、本報告書)における「デジタル広告に関わる広告主・広告代理店、パブリッシャー、アドテク事業者、プラットフォーム事業者、一般消費者などの関係者にとって、デジタル広告市場が健全で持続的なものとして発展していくことを目指していきたい」<92ページ>という目的には、当協会においてもかねてより目的とするところであり、賛同する。
- 当協会は、その趣旨において、デジタル広告(インターネット広告)の業界を代表する団体として、国内外の大手から中小規模まで幅広いパブリッシャー(媒体社)、プラットフォーム事業者(アドテク事業者を含む)、広告代理店(広告会社)が集まり、デジタル広告の諸課題の解決を主要目的として活動している立場から意見を申し述べる。
- デジタル広告市場については、その実態や問題の所在に関して当事者である広告関係者においても誤認や誤解が生じがちな複雑な構造であるため、本報告書においても誤認と思われる記述が散見されるが、当意見は記述を正確なものにすることよりも、市場の健全な発展という本質的な目的のために必要な意見を述べるものである。なお、本報告書に記載されている検索エンジンに関する課題については、デジタル広告の課題ではないため、当協会としては意見を述べる対象に含まない。
<4~92ページ>
「1 市場実態」及び全体
- 日本のデジタル広告市場は、「日本の運用型はクリックが発生してやっとマネタイズされることが多い」<7ページ>と指摘されるように、広告主がCPC(クリック1回あたりの単価)やCPA(アクイジション(顧客獲得)1回あたりの単価)といった分かりやすい指標により広告取引を行う傾向が強い。日本では、デジタル広告は「「販促」のための手段として発展」<7ページ>し、広告宣伝費だけでなく販売促進費を取り込んで市場が伸長した。
- 広告主がパフォーマンス(獲得効率)を優先し、ターゲティングによる効率を重視することによって、運用型広告が拡大した。プラットフォーム事業者は、広告主のニーズに合わせてより効率的な仕組みへと進化させてきた。ニーズから生まれたビジネス構造が市場を拡大した一方で課題を孕む要因となったといえ、それらの課題は広告主を含む市場構造全体に起因して生じてきたものであり、プラットフォーム事業者のみに責任を嫁す考え方は妥当性を欠く。
- 大規模プラットフォーム事業者に個別の広告取引にかかわる義務が課された場合、パブリッシャーや中小のプラットフォーム事業者は、取引関係や競争関係にあると同時にパートナーとして相互に連携しているため、通常のビジネスでは不要な営業上の秘密にあたる情報の開示や業務上の負荷、新たなシステム投資等を必要とすることになりかねず、かえってパブリッシャーや中小のプラットフォーム事業者が更に苦しい立場に置かれるおそれがある。
- デジタル広告ビジネスにおいては、従来のマスメディア広告におけるパブリッシャーや大手広告主だけでなく、中小企業や個人も含めて多様なプレイヤーが市場を形成している。日本に限らずグローバルで、規模の大小を問わず多くのプラットフォーム事業者が、広告の需要と供給の連鎖構造を構築している。それらのプラットフォーム事業者が提供する広告プログラムや出稿管理ツールにより、様々な企業・団体や個人が広告を掲載する媒体を運営することも、広告主として広告を出稿することも容易となっており、多数の当事者が関与する複雑な取引が行われている。
- プラットフォーム事業者は多様であり、必要な対策は個々の事業者ごとに異なるため、デジタル広告業界に対して法規制を含む画一的な施策をとることは効果的ではない。まずは、当協会が整備してきた各種ステートメントやガイドラインを更に改善しつつ、プラットフォーム事業者を含む各市場参加者における適切な遵守を確保していくことで、市場の健全な発展を図ることが重要である。
<18~33ページ>
「2 デジタル広告市場における課題と対応の方向性に係る基本的な方針」
「3 各課題と対応の方向性 課題①:[透明性] デジタル広告市場における質に係る問題」
「3 各課題と対応の方向性 課題②:[透明性] 価格や取引内容などの不透明さ」
- リアルタイム取引において、パブリッシャーはCPM(インプレッション1000回あたりの単価)でSSP/アドエクスチェンジに販売し、広告主はCPCやCPAで購入する、ということがあり得る。トランザクション(売買の処理)は1対1では紐づかないため、「トランザクションごとに広告の取引IDを付し、広告主・広告代理店やパブリッシャーが(略)実態をトレースできるようにすること」<28、33ページ>の実現可能性は極めて低く、現実的ではない。
- 日に億単位のトランザクションについて介在したプラットフォーム(都度異なる)の情報を、多数のパブリッシャーの膨大な広告枠、多数の広告主の膨大な数のキャンペーンに関して個々に開示することの非合理性は言うまでもない。
- アルゴリズムの開示を強制されることで、プラットフォーム事業者の営業秘密の侵害等の競争上の歪みや、利用者によるアルゴリズムを悪用する事例を誘発するおそれもある。加えて、そもそも、アルゴリズムに基づく入札プロセスの全てを言語で表現し、開示することは、現時点では技術的に難しく、ブラックボックスを完全に解消することはできない以上、過剰な透明性の確保を求めることは非合理である。
- 透明性の具体的オプションについては、プライバシー法上の制約が存在することを考慮の上、慎重に検討することが求められる。特に、取引IDについては、デジタル広告ビジネスに関わる何千もの事業者が、ユーザーデータにアクセスすることを可能にするものである。そして、当該事業者が保有する他の情報を照合した場合には、取引IDから個々のユーザーを特定することが可能となるケースもあることに照らせば、その導入には極めて慎重な検討が必要であることは言うまでもない。また、この提言は、本報告書後半で記載されているユーザーのパーソナルデータやプライバシーの保護の要請と明らかに矛盾している。
<29~33ページ>
「3 各課題と対応の方向性 課題②:[透明性] 価格や取引内容などの不透明さ」
- CPMでの取引が主流の欧米とは異なり、日本では「効率を重視して安く買うことに注力する傾向にあり」、パブリッシャーがCPMで売ることを希望しても、広告主がCPC、CPAで購入することを求める傾向があるため、クリックに限らずインプレッションも「単価が欧米に比べて低い」現状がある。日本では、パブリッシャーがCPMで売ることを希望し、広告主がCPCで購入することを求めることから、プラットフォーム事業者がCTRを予測して、CPCで支払われた広告費をCPM換算してパブリッシャーに支払っている(プラットフォーム事業者がリスクを取っている)というビジネスモデルが存在し、一概に価格や手数料の問題ではないことに注意が必要である。この点は今後の検討において十分に考慮されるべきである。
- 上述のように、パブリッシャーとプラットフォーム事業者の取引と、プラットフォーム事業者と広告主の取引は一致せず、「パブリッシャーにとって(略)最終製品たる広告枠の買い手を探すための取引市場」<32ページ>であるとしても、パブリッシャーを売り手、広告主を買い手とする単一の取引市場であるとの捉え方は、運用型広告の取引市場においては当てはまらない。広告主やパブリッシャーが売買価格にアクセスできるようにするとの考えは、個別の取引契約における営業上の秘密に該当する情報を開示することになるため、認められるべきではない。(なお、「入札全体の流れ」<13~14ページ>の説明及び「【図3】入札の流れのイメージ」<14ページ>において、広告主のサーバーがDSPに対してビッドを行い広告配信をしているかのような認識は誤りであり、広告主とパブリッシャーが互いに売買を単純にトレースできるかのような誤解が生じかねないことを申し添える。)
- 欧米のデジタル広告の活用に意識的な広告主においては、運用型広告において取引の成立までの段階において介在するプラットフォームや、想定されるリスクに対処するためのツールなどの利用コストは、媒体費とは別のコストとして認識されるようになってきている。また、日本に多いCPC取引においては、プラットフォームは一定のリスクをとって取引を仲介している。すなわち、広告主が負担する利用コストは、手数料(マージン)という理解ではなく、広告出稿に必要なツールの利用料と捉えるべきであり、運用型広告の初期の頃にTech Taxと言われたような問題にはなっていない。
<18~39ページ>
「2 デジタル広告市場における課題と対応の方向性に係る基本的な方針」
「3 各課題と対応の方向性 課題①:[透明性] デジタル広告市場における質に係る問題」
「3 各課題と対応の方向性 課題②:[透明性] 価格や取引内容などの不透明さ」
「3 各課題と対応の方向性 課題③:[透明性] 第三者による到達指標等の測定」
①アドフラウドについて
- どのパブリッシャー、プラットフォーム事業者においてもbot等による無効トラフィックは常に発生しているが、定義されている無効トラフィックや既知のアドフラウドによるトラフィックは、自動的にIVT(Invalid Traffic)として広告主への広告配信結果レポートから除かれ、広告主に請求されない。疑わしいトラフィックを検知して請求から除外することも行われている。請求後に無効トラフィックと判定された場合の広告主への返金も一部大手プラットフォーム事業者で行われている。
- 当協会は、2017年8月に「アドフラウドに対するステートメント」を公表し、悪質な第三者による不正な広告費詐取の手法を類型化し、その排除に努めることを宣言した。アドフラウドは、パブリッシャーやプラットフォーム事業者がインプレッションやクリックを水増しして広告主に被害を与えているものではない。広告主は悪意ある第三者によって広告費を詐取され直接被害を受けるものであるが、URLを偽装(ドメインスプーフィング)されて売上を横取りされるパブリッシャーや、隠し広告(Hidden Ads)で不良な広告在庫をつかまされ返金を余儀なくされるプラットフォーム事業者も間接的な被害者である。このような被害を可能な限り抑えるために、広告関係者各々が対策をして悪意ある第三者をサプライチェーンから締め出すことが必要である。
- アドフラウドの代表的な手法であるドメインスプーフィングについては、グローバルで策定された標準仕様(ads.txt、SupplyChain object、sellers.json)による技術的対策が、既にパブリッシャー、プラットフォーム事業者によって導入され進んでいる。
- なお、アドベリフィケーションツールを含めどのような技術をもってしても、未知の新手かつ巧妙なアドフラウドは検出不可能であり、それらが既知のものとならない限りは検出し得ない。また、定義・未定義にかかわらずIVT(アドフラウドによるトラフィックを含む)は予見し得るものではなく、事後的に計測されるものである。計測されたIVTの広告配信結果レポート上の処理は先述のとおりである。
②ブランドセーフティについて
- 広告掲載先が不適切であることによりブランド毀損が生じる問題は、効率優先による弊害ともいえる面がある。ブランドを重視する広告主は、予約型やPMPでの購入、セーフリストの利用など、適切な方法を選択することで広告掲載先の安全性を確保することができる。予約型やPMPが比較的単価が高いとしても、質の高いパブリッシャーの広告枠の価値が正当に評価され、それが価格に反映されることは取引において公正であるといえる。
- ブランドセーフティのためにプラットフォーム事業者もコスト・手間をかけ、違法・不当サイトの排除をプラットフォーム事業者自らのポリシーと責任で行っている。その上で、さらにブランドに合った広告掲載先を広告主自らがコントロールできるよう、選択可能なサービスを開発して提供している。どのようなレベルの広告掲載先の品質が求められるか、ブランド毀損リスクにおける「不適切」の考え方は、明らかに排除すべき「違法・不当」とは異なり、広告主の企業ブランドや商品ブランド、キャンペーンの内容などによって様々である。ブランドセーフティの実現において、あらかじめ品質基準やリスクを明確化することは必要であるが、広告掲載先の品質を数量的に(数値化して)表すことには有効性がないことを付言しておく。
- 当協会は、2017年12月に「広告掲載先コントロールによる「ブランドセーフティ」確保に関するJIAAステートメント」を公表し、違法・不当な広告掲載先を排除し、広告主にとって不適切な広告掲載先をコントロールすることを宣言。2019年4月には「広告掲載先の品質確保に関するガイドライン(ブランドセーフティガイドライン)」を策定し、会員にはチェックリストを提示している。
- 当協会は、2014年から警察庁・インターネットホットラインセンターから違法有害サイト情報の提供を受け、会員のプラットフォーム事業者等がブロックリストとして活用している。また、2017年からはコンテンツ海外流通促進機構(CODA)から著作権侵害サイト情報の提供を受け、同じく活用を行っている。
- パブリッシャーやプラットフォーム事業者が各々自主的に適切な対策を実施して自社のサービスを管理するとともに、自社の品質基準や透明性のレベル(配信先の開示の有無など)を明確化し、広告会社がリスクを理解して広告主への説明を行い、広告主が自らの基準に合ったリスクに対する対応策を実施するなど、広告関係者間におけるブランドセーフティの課題の多くは、各事業者が相互にリスクや基準を説明し、理解し、自主的に必要な対応を取ることで解決するといえる。
③ビューアビリティについて
- ビューアビリティ(視認可能性)は、認知を目的としてCPMで購入する広告主にとっては重要であり、統一基準で測定可能な技術も導入され、広告枠の取引価格に反映されているものであるが、獲得効率を重視してCPC、CPAで購入している広告主にとっては、到達指標としては意味を持たない。
- ビューアブルインプレッションの測定については、米国MRCの認定を受けているアドサーバーや測定ベンダーが日本においてもサービスを提供している。MRCが定義する統一的な基準で測定され、価格の設定や効果を測るために利用されているものの、広告がユーザーに本当に見られたかどうかを判定するものではない。パブリッシャーにおいては技術的な実装に留意する必要があり、ビューアブルであるかどうか判定されないインプレッションもあるなど、完全に確立された測定技術とはいえないが、広告価値が正しく評価されるために必要な指標であり、既に相場に反映されている。
- 当協会では、2016年6月に「ビューアビリティに関するJIAAステートメント」を公表し、2017年5月に「ビューアブルインプレッション測定ガイダンス」を作成している。2018年5月には「ビューアブルインプレッション広告価値検証調査結果」と「媒体社のためのビューアビリティ向上施策 ヒント集」を発表し、普及啓発を図っている。
- 広告取引の指標となるインプレッションの測定基準や測定手法に関しては、業界(IAB/MRC)のグローバルガイドラインにより標準化されている。日本においても同様の測定基準・測定手法のアドサーバーや測定ベンダーのサービスを採用していることから、第三者によるオーディエンス測定やオーディットではないことがすなわち信頼性がないということは当たらない。
- ここでいう「第三者によるオーディエンス測定やオーディット」とは、広告主がキャンペーンの効果をトータルリーチで測定したいというニーズにおける「第三者測定」とは異なる。
④ユーザーエクスペリエンス
- ユーザーエクスペリエンスとは、「消費者が広告に接触することで得られる広告体験を指す」<23ページ>ものである。コンテンツを閲覧しようとするユーザーにとって広告が「煩わしい」という状況は、デジタル広告だけではなく、広告一般に共通して起こり得る課題である。コンテンツを視聴したりツールを利用したりするためにパブリッシャーのサイト等を訪れる多数の消費者に対して、コンテンツの一部に割り込み広告情報を強制的に見せるものであるため、広告がコンテンツの視聴や利用を妨げないようにすること(ユーザーエクスペリエンス、アドエクスペリエンス)が必要とされる。広告は、ユーザーから不快に思われてしまえば、その効果はないどころかマイナスであるため、プライバシーへの配慮だけでなく、広告の表示のされかた(フォーマット)や内容等にも配慮を必要とする。
- ユーザーエクスペリエンスの阻害は、非ターゲティング広告であっても、コンテンツを閲覧しようとするユーザーに対して、広告のビューアビリティやインプレッション、クリックを稼ぐことを意識するあまり、広告枠を強引な手法で表示したり、同一画面上に過剰に設置したり、クリックを誘発するような配置にしたりすることなどで生じ得る。問題の多くは、パブリッシャー等による広告フォーマットの改善や、広告主、広告会社による数値的な指標のみを偏重しない出稿の最適化により対応できるものであり、プラットフォーム事業者だけに「ユーザーエクスペリエンスの見える化」<24ページ>を要求しても何ら実効性はない。
- 当協会は、広告倫理綱領や広告掲載基準、広告フォーマット等の各種ガイドラインを策定し、パブリッシャーやプラットフォーム事業者、広告会社等の会員各社がそれらのガイドラインを基準として自主的に改善、最適化に努め事業活動を行っている。
<40~49、60~90ページ>
「3 各課題と対応の方向性 課題④:[データ利活用]」
「3 各課題と対応の方向性 課題⑩:[消費者の視点]パーソナル・データの取得・利用に係る懸念
- 消費者庁アンケート調査結果において、消費者が「求めていない内容の広告が表示されること」が課題であるかのように提示されているが、デジタル広告に限らず、オフラインの新聞、雑誌、テレビ等のどのメディアにおける広告においても、消費者が求めている情報だけを届けるものではない。ターゲティング広告であっても個々の消費者にとって興味関心がある広告を選んで届ける技術ではなく、認知や獲得を目的として興味関心のありそうなユーザー群を推測して広告を配信しているに過ぎない。そのような広告のありようはどのメディアにおいても社会通念上受容されているものと考えられる。このことは、公取委消費者向けアンケート調査結果において、有料で広告が表示されないサービスの利用については、このようなサービスを利用する旨希望した消費者がごく少数(約11%)に留まっていることからも明らかである。また、当協会が実施した「2019年インターネット広告に関するユーザー意識調査」においても、「「無料で利用できるなら、広告はあっても良い」(77.6%)又は「サービスの有料・無料にかかわらず、広告はあって良い」(13.1%)と回答した消費者(「広告受容者」)は、全体の約9割に達している」<60ページ>のであり、ユーザーは広告の役割やメリットを理解しており、広告を受容する意識が非常に高いことが明らかになっている。
- 公取委消費者向けアンケート調査において、ユーザーデータの広告利用についてデフォルトオフ(明示的オプトイン)が望まれているかのように結果が示されているが、そのように誘導する設問となっているものである(個人情報保護法で通知または公表された利用目的については個人情報の取得に同意義務がないにもかかわらず、個人情報該当性の有無にも関係なく同意した覚えがあるかどうかを尋ねている等)。また、ターゲティング広告に対して同意を与えない結果として広告が表示されなくなるわけではなく、より関連性の低い(場合によっては、ユーザーにとってより不適切な)広告が表示される可能性があることについて、充分に説明されていない。
- どのようなセグメントにどのような広告を届けるかは、広告主のマーケティング施策によるものであり、パブリッシャーやプラットフォーム事業者が関与できるものではない。ただし、ターゲティング広告配信に利用されるデータの全般的な取扱いにかかる透明性とユーザー関与の機会(オプトアウト)の確保については、パブリッシャーやプラットフォーム事業者の遵守義務として当協会が定める「プライバシーポリシーガイドライン」及び「行動ターゲティング広告ガイドライン」において規定しているものである。透明性とオプトアウトの徹底は、さらに「インフォメーションアイコンプログラム」の運用や「DDAI」によるオプトアウトサイトの運営、各プラットフォーム事業者による「プライバシーダッシュボード」の提供などの各施策によりエンフォースメントがなされている。これらの自主的な取り組みにより、ユーザーが接する広告上のアイコンや、広告を掲載したパブリッシャーのプライバシーポリシーなどにおいて、ターゲティング広告でのデータの取得・利用の場面で、都度、選択の機会の提供がなされている。
- 広告に接触したユーザーのデータであっても、プラットフォーム事業者が安易に広告主に提供することは適切ではない。データ主体はあくまでもユーザーであり、ユーザーを起点にプライバシーやユーザーのコントロール権に配慮した取扱いを行う必要がある。データ寡占や取引透明性の観点でのみデータの開示や共有を論じることはデータ主体の権利に配慮を欠くことになりかねず、市場のニーズだけで考えるべきではない。
- インターネット上のユーザーデータの利活用は、デジタル広告のターゲティング配信での利用に限らない。デジタル広告事業の運営を通じて得られたデータに対して法的な排他権は成立せず(非排他性)、またデジタル広告事業の運営に利用できるデータには多種多様なデータがあることから(代替性)、データを収集及び利用すること自体によってプラットフォーム事業者が競争上の優位性を得たり、プラットフォーム事業者に対する依存度が高まったりする訳ではない。広告利用において、どのようなリスクが消費者に起こり得るのか、立法事実がないにもかかわらず、ユーザーの漠然とした懸念に応じてデジタル広告産業だけに個人情報保護法で規定されている範囲を超えて厳しい法的義務(オプトインやデータ・フィデューシャリー・デューティ等)が導入されるとなれば、著しく公平性に欠ける。プラットフォーム事業者は、エンドユーザーに無償でサービスを提供する一方で、何らかの方策で収益を確保する必要がある。これに照らせば、ターゲティング広告のデフォルト設定の禁止は、憲法上保障されている同事業者の営業活動の自由を著しく制約するものとして、過度な規制とならないよう業界の自主的な取り組みの効果を見ながら、正当な立法事実に基づき慎重に議論を行うことが必要であることは言うまでもない。また、これらの法的義務の結果としてターゲティング配信が制約されれば、プラットフォーム事業者を超えて、広告主、広告代理店、パブリッシャーなどの広い範囲に大きな影響を与えるものであり、ユーザーだけではなくこれらの利害関係者の意見も考慮することが必須である。
- 実行不可能な措置や過度の要件を義務付けないようにしていただきたい。たとえば、企業が多様なサービスのためにデータの取扱いを行っている中で、ターゲティング広告のためのデータの取得・利用について事前の同意オプションを提供したり可否を選択する機会を定期的に通知して提供したりすることをプラットフォーム事業者に求めることは、それらに対応するためにプラットフォーム事業者に生じるコストが飛躍的に大きくなり、中小のプラットフォーム事業者やパブリッシャーにかかる技術的な負荷も高くなるおそれがあり、広告主の支払う費用やパブリッシャーの収益にもマイナスの影響が生じかねない。また、一部のサービスでは、革新的で使いやすいサービスを提供し続けるために収集されたデータが必要であるが、その取扱いに関しても通知を行うように求めることは、安定的に安価なサービスを提供することも困難になり、現実的ではない。
- 広告のために取得したユーザーデータは、あくまでもコンテンツサービスを経済的に支えるために広告ビジネスに利用するものである。すなわち、広告事業において過剰な義務を負うことになると、そのコンテンツサービスを提供できなくなるおそれがある。
- 一方、消費者庁アンケート及び公取委消費者向けアンケートの両アンケート調査結果には、ユーザーにとってより望ましい広告の在り方に関する重要な示唆も含まれている。消費者庁アンケートでは、「一定程度の消費者は、オプトアウトの機会が与えられることで懸念が緩和されていることが見受けられる」<84ページ>との調査結果であり、「オプトアウトのニーズに対応できるよう、消費者にとって分かりやすい形でオプトアウトの機会が提供されることが必要である」<84ページ>との示唆が得られている。また、「仮に消費者の同意があったとしても、事業者として行うべきでないデータの利用の仕方やターゲティング広告の行い方がある」<86ページ>との考え方については、既に当協会のガイドラインに配慮事項として盛り込んでいるものではあるが、さらに広告主を含む広告関係者が自主的に配慮すべき倫理的な観点ついて、指摘を踏まえつつ、ユーザーの不安や懸念を払拭すべく、インフォメーションアイコンプログラムやDDAIの周知・普及など、業界の自主的な取り組みに一層努めたい。
<4~92ページ>
「4 今後の取組」及び全体
- 以上のように、各課題については、業界横断で広告主とも協議しながら、かねてより自主的に対応を行ってきており、様々な施策によって、互いの予見可能性を確保し、健全化の努力を重ねているところである。そして、デジタル広告ビジネスが変化の激しい業界であることに照らせば、同業界における課題解決にあたっては、これらの業界の自主規制の妥当性・合理性がまずは検証されるべきであり、この過程を飛ばして法規制の要否を検討することは、早急に過ぎると言わざるを得ない。
- 運用型広告における取引上のトラブルを防止するためには、あらかじめ関係者間で相互に認識を統一しておくことが必要である。実ビジネスでの取り決めは、各社間の調整に委ねられるものであり、個別のトラブルの状況により、対応は異なるが、関係各社の相互理解・信頼を損なわない公正・合理的な範囲で協議することが肝要である。当協会では、運用型広告に関して、持続可能で健全な市場を形成するため、業界全体で協調すべき業務プロセスやサービスレベルの標準化(2018年12月に「運用型広告業務に関する基本ガイドライン」を策定)や研修等の教育機会の提供も行っている。
- 事業者間のビジネスを円滑にするための標準化ルールは、業界全体で当事者である広告関係事業者が自ら協議・検討し、合意形成を図りながらルールを決め、方向性を示していくことが必要である。当協会は、デジタル広告ビジネスの黎明期から、その役割と責任を担い活動している。デジタル広告ビジネスのベストプラクティス(最良慣行)を示すのは、パブリッシャー(媒体社)、プラットフォーム事業者(アドテク事業者を含む)、広告代理店(広告会社)を会員とする業界団体である当協会の役割であると認識している。グローバルで変化の速いデジタル広告市場においては、業界全体で取り組むべき施策を迅速かつ効果的に実行していくことが重要である。先述の各種ガイドライン等の業界ルールを指針として各社それぞれに必要な技術開発や対策の実践と継続的な改善を行うことで、事業者間での取引において適切な選択がなされていくものと考える。業界自主ルールの一層の普及啓発と実効性の向上に努めたい。
- 加えて、デジタル広告の諸課題は、プラットフォーム事業者だけでなく、「広告主・広告代理店、アドテク事業者、パブリッシャー、消費者それぞれに関わる問題」<91ページ>であり、「こうしたマルチステークホルダーによるそれぞれの立場での取組が重要」<91ページ>である。当協会加盟会員外の重要なステークホルダーである広告主及び一部の広告会社(広告代理店)については、日本アドバタイザーズ協会及び日本広告業協会との定期的な意見交換を通じて、課題解決に向けた施策検討を継続して行っており、現在、「アドベリフィケーションのための組織の立上げ」<24、25ページ>など具体的な取り組みも推進しているところである。また、ユーザー(消費者)については、昨年は「2019年インターネット広告に関するユーザー意識調査」を実施し、ユーザー視点での課題をあらためて認識するとともに、当協会が取り組んできた業界自主ルール策定等の各種施策がユーザーのインターネット広告に対する信頼性及び価値向上に貢献するものであることを確認した。本年もユーザー視点を重視した具体策を実行する根拠とするため、さらに深く調査を実施し、ユーザーの声を業界の自主的な取り組みに反映させていく所存である。
- デジタル広告業界に対する施策は、その変化の激しさや事業者の多様性に対応できるように、技術的・経済的に実現可能性のある柔軟なものであるべきであって、画一的な施策となるべきではない。本報告書において提示された問題の所在が本当はどこにあるのか、その原因の本質は何か、その解決策は何か、解決の障害になっていることはあるのか等を、今後の検討によって特定して明らかにし、関係当事者が正しい理解をもって適切な対応を行えるよう助力をすることがイノベーションを促進するのであって、デジタル広告産業が激しく変化するなかで、規制ありきで理解や意見交換が不十分なまま、曖昧な考え方や抽象的な懸念に基づいて、事業者に対して対応が求められるようなことになれば、日本国内におけるデジタル広告産業の健全な発展は望めない。適正な事業活動の妨げになることのないよう、業界の自主的な取り組みを踏まえ、十分にビジネスや技術の実態を考慮して検討を行っていただきたい。
- また、検討にあたっては、デジタル広告ビジネスは、テクノロジーの発展やトレンドの変化などによって日々進化しており、特定時点の断片的な情報をスナップショット的に切り取って対応を決めることは、将来、意図せぬ結果を及ぼしうることに注意が必要である。この観点からも、迅速かつフレキシブルな業界の自主的な対応によって実効性の確保を可能とする方向性を重視すべきである。
- デジタル広告は、社会やビジネス環境の激しい変化に対応する様々な企業のために、製品やサービス、コンテンツのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する礎となり、産業を活性化してきた。また、インターネットの特徴を活かし、デジタル広告はオープンなビジネス環境を幅広く提供し、スモールビジネス創出の機会や中小企業のデジタル化導入による低コスト・売り上げ増を支援してきた。今後、最終取りまとめにあたり、このように産業全体に関わるデジタル広告の役割を認識いただき、政府・有識者の皆様により、関係当事者からの意見を聴取し、実態を十分に踏まえた議論により検討を深め、実効的かつ現実的な提言がなされることに期待する。